ザ・コールセンター 小説

【小説】ザ・コールセンター 第2話「プロの流儀」

2015/08/11

【小説】ザ・コールセンター

このお話は・・・

全国のコールセンターで働く派遣社員3人が「ま、いいカンジじゃね?」と思う(はず)!
満を持さず、誰も待望していないけれど小説化!!

コールセンター(某大手通信のネット回線開通の工事日をする窓口)を舞台に新人オペレーター菊川文子と、某アニメ並の完璧超人 鮎川義人が繰り広げるドタバタ劇。

約2年間、LD(リーダー)を務めた筆者がコールセンターと派遣社員の現実をけっこう赤裸々めに、ソコソコのスケールで綴っていきます。




第1話が結構読まれてびっくりしました 小鳥遊@目指せ直木賞 です。

この話はコールセンターで働く派遣社員さんにスポットをあてた半沢直樹的な話になる予定ですが、そうならないかもしれません。

もう少ししたらラブとか若干大人向けなシーンとか色々やるつもりなので、よろしくお願いします。

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今回の登場人物

菊川文子(きくかわふみこ)

主人公 二十●歳 コールセンター未経験 派遣社員 全編通しての語り手

鮎川義人(あゆかわよしひと)

主人公 三十三歳 コールセンター歴3ヶ月 派遣社員

相葉智之(あいばともゆき)

教育係 三十三歳  コールセンター歴1年のSV(スーパーバイザー) 正社員

木本俊哉(きもととしや)

サブキャラ 二十四歳 コールセンター未経験 派遣社員 いまどきの若者 新人で文子の同期

【小説】ザ・コールセンター 第2話「プロの流儀」

「そうそう、10回コールして出なかったらそのまま切って、履歴メモにこのテンプレを貼り付けて更新してください。」

トモヤは、相葉さんの指示に某携帯会社が販売しているロボットのようにギクシャクと頷いた。

このコールセンターは某大手通信事業者から委託を受けて運用されている。各営業代理店が取り付けた個人のお客様に電話をし、回線を引き込む工事日を決めることが目標になる。

 後で聞いた話だとメンバーの構成比はだいたい正社員3割・アルバイト3割・派遣社員4割となっているようだ。パーティションの向こう側にはクライアントの社員たちも数人常駐しているらしい。

ほとんどのコールセンターはアウトソーシング(業務委託)で運用されており、そのほとんどをアルバイトや派遣社員、ようするに非正規社員で賄うことがほとんどなのだという。

「非」正規社員・・・正規じゃない社員・・・業務の内容はともかく第一線でお客様と接する人間のほとんどが「正しくない社員」というのは正常なことなのだろうか。派遣社員を長くやっていると、知らず知らずに卑屈な考えや発言が増える。はぁ・・・

 

何はともあれ、「正しくない社員」である新人5人は手汗でマニュアルをふやかし、脇汗でシャツを透かしながらも相葉さんの指導のもと、危なっかしいながらも架電を進めていた。昼下がりの忙しい時間のせいか10コール鳴らしても出ないか、留守電に切り替わってしまうことが多いが、1時間ほどするとポツリ、ポツリとお客様につながることもでてきた。

わたしは電話が苦手だ!!

ケータイだって毎月スマホの基本料金しか払っていないほどの腕前だ。

パソコンは持っていない!

じゃあなぜIT系のコールセンターに就業したか・・・これしか受からなかったからだ。4つの派遣会社に登録し毎日数十件のエントリーをしたが断られ、ようやくたどりついたのがこの職場だった。

 

「マニュアル完備・研修充実・ノルマなし・パソコンの基本操作ができれば大丈夫!」との触れ込みだったから応募したのに、渡された資料はすべてあわせると厚さ10センチを超える。リストはエクセルで渡され、ほとんどの業務を手作業で行う。

同期で唯一のコールセンター経験者に話を聞くと「こんな原始的なコールセンター、見たことがない」のだそうだ。

 

「最初のうちはあわてず1件1件やったらいいですからね。わからないことがあれば手を上げてくれればすぐに駆けつけます。」

心強い相葉さんのお言葉がわたしたちの不安を和らげる。だだ正直なところ・・・わたしたち5人に相葉さん1人はどうみてもキャパ不足だ。相葉さんが誰か1人の相談に乗ってしまったら、その間わたしたちは身動きがとれなくなってしまう。そんなわけで、一番カンタンな案内で完結する属性の顧客リストを渡されたにも関わらず、わたしたちの架電は遅々として進まなかった。架電を初めて2時間がたとうとしているのに1人5、6件というあんばいだ。

 

それを察したのか、相葉さんが近くに座っている男性オペレーターに声をかけた。

「鮎川くん。忙しいところ悪いんだけど少し手伝ってくれない?もう100件超えたでしょ?今日はリーダー以上がほとんどいないんだ。頼むよ。」

「あ、はい。構いませんよ。」

イントラを確認すると、なるほど彼はわたしたちが悪戦苦闘している2時間の間に40件近くかけてしまったわけだ。

 

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1位 鮎川 義人  119 40
2位 河口 美鈴  51  13
3位 小倉 緑   47  8

・・・

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ええい、このセンターのエースはバケモノか!!

何はともあれ、鮎川さん・相葉さんの2人でわたしたちの面倒をみてくれることになった。

 

鮎川さんの指導は・・・意外にもとても丁寧だった。履歴メモの残し方、ツールの使い方、お客様からわからないことを聞かれてテンパった時まで、手を上げればすぐに駆けつけてくれる。

特に参考になったのが鮎川さんが書いてくれる図だ。彼はお客様を待たせている時以外はゆっくりと時間をとってできる限り図を使って、わたしたちの質問したことの少し先までレクチャーしてくれる。座学では教わらない実践的な内容でとてもためになる。

コールセンター架電フロー

 

「ほら。今の時間はほとんどが不在だから最初から不在の履歴を貼っておけば効率がいいでしょ?」(鮎川さん)

「なるほど~」(一同)

 

こんなにていねいに教えてくれる先輩がいる。これなら何とかなるかもしれない。さっきまでコロッケがモノマネしている五木ひろしみたいにギクシャクしていた5人に少しだけ安堵の空気が流れる。

 

そんな時だった。鮎川さんがわたしたちにこんな質問をしてきた。

「ところでみんな。トークスクリプト開いたまま架電しているみたいだけど。研修で覚えるように言われなかった?」

 

確かにわたしたちは数日前にトークスクリプトの冊子を渡されており、相葉さんからも暗記するように言われていた。今日もスクリプトはできる限り見ないようにして、どうしても思い出せないとき・飛んでしまった時だけ開くように指示されていた。わたしは5人を代表して申し訳なさを演出しつつ説明した。

「すみません鮎川さん。それがなかなか覚えられなくって。次までには覚えますから今日はこのままってことでお願いできないでしょうか?」

「それってここにいる全員ってこと?」

それぞれがバラバラに頷く。

 

バンッ

 

その瞬間、鮎川さんの拳が机を叩いた。置いてあったわたしのペンがフロアに落ちる。

「プロとしてこの場に立つ気がないなら今すぐ帰れ!!」

 

数人が何ごとかと驚いてこちらを振り返ったが、すぐに何ごともなかったかのように業務に戻った。え?何?慣れてる?

さっきまであんなに優しかった鮎川さんが目を吊り上げて、わたしに掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってくる。いや近いし。っていうか何でわたしだけ!?

 

「練習でできないことが本番でできるわけないだろ。何で今日までに覚えてこなかった!?」

「そ、それが何度も読み返したんですけど覚えられなかったんです~。」

「だったら何でここにいる?覚えられていないんなら相葉に言って時間もらえばいいだろ?お前が舞台俳優で当日までにセリフ覚えられなかったら台本持ったまま舞台に上がるのか?あぁ!?」

 

あまりの迫力に、わたしは・・・言ってはいけないことを・・・言ってしまった。

「覚えてなくたってお客様には見えないから支障はないじゃないですか~。まだ初日なんですからそんな小さなことで怒らないでくださいよ~。」

 

バンッ

 

もう一度机が叩かれる。刺すように鋭い視線。わたしの背中に嫌な汗が伝うのがわかった。

「いいかよく聴け。カンペの棒読みってのは絶対にバレるんだよ。その上、お客様の話が頭に入らないからミスが出る。そして何よりそのだらけきった根性が周りに伝染する。それでセンター全体のパフォーマンスが下がったりクレームが増えたりすれば、『これだから派遣は・・・』ってここで働いている派遣社員全員の評価が下がることもあり得る。それでも小さなことか?」

 

鮎川さんの眼の奥に燃えていた炎がようやく下火になったところで、相葉さんが止めに入った。

「鮎川、ちょっとやり過ぎだぞ。」

「・・・」

「みんな。今日はこのあと自習にしよう。明日までに必ず覚えてくること。いいね?」

 

この時彼らが互いを「鮎川」「相葉」と呼び捨てで呼び合っていたことに、わたしたちは誰も、気づかなかった。

 

同期たちは定時になるとさっさと帰ってしまったが、わたしはなぜか帰りにくくて喫煙ルームに来ていた。スクリプトは覚えた・・・と思う。

フーッ・・・煙が少し目に染みた。

もう一本日をつけたところで・・・鮎川さんが入ってきた。執務室での叱責を思いだして体がこわばる。それを見透かしたように彼は口を開いた。

「そんな固くならなくていいよ。」

「あの・・・その・・・申し訳ありませんでした。」

 

鮎川さんは少しバツが悪そうに頭を掻きながら口を開いた。

「覚えられないんだったら覚えられないでいいんだ。時間とるから。ただ準備不足で仕事をするのだけはやめて欲しい。」

「準備・・・不足。」

「知らないことは聞けばいい。できないことは練習すればいい。それでも失敗したら仕方ない。でも失敗するべくして失敗することは1円でも報酬を得ている以上絶対に許されない。派遣だろうが、バイトだろうが、正社員だろうが絶対にだ。それがプロの流儀だからね。」

 

返す言葉がなかった。自分がどうして前の派遣先を切られたのか。わかったような気がした。

いつの間にかタバコの火が消えていた。吸い殻を灰皿に放り込み、新しいタバコをくわえるとZIPPOを擦る音がして薄暗くなってきた喫煙ルームに柔らかい光があふれた。

わたしのタバコに火がつくと彼は満足そうにニッと笑ってZIPPOを胸ポケットにしまった。

 

「明日も普段通り来てね。『昨日のことは引きずらない。』これもプロの流儀だからね。」

 

彼があんなにも厳しくわたしたちを叱責した理由を・・・もう少し深く考えていれば・・・そう後悔するのは、もう少し先の話。

つづく

本日の教訓

プロは準備不足で戦場には立たない

昨日のことは引きずらない

次回予告

鮎川さんは心底うんざりしたように首を振った。

「何?君は全自動棒読みマシーン?その頭につまっているのは信州ミソかい?それならそこにいるのは君である必要がない。ラジカセのほうがずっと安上がりだ。」

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(たかなし むつき)と読みます。元某大手通信系コールセンター派遣社員。36歳で派遣脱出を達成!今はシステム運用の中の人です。コールセンター仕事術や転職など、自分でいうのもアレですが、いいこと言ってます。 >> 詳細プロフィール


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