ザ・コールセンター

【小説】ザ・コールセンター 第3話「スクリプト」

2015/08/25

【小説】ザ・コールセンター

このお話は・・・

全国のコールセンターで働く派遣社員3人が「ま、いいカンジじゃね?」と思う(はず)!
満を持さず、誰も待望していないけれど小説化!!

コールセンター(某大手通信のネット回線開通の工事日をする窓口)を舞台に新人オペレーター菊川文子と、某アニメ並の完璧超人 鮎川義人が繰り広げるドタバタ劇。

約2年間、LD(リーダー)を務めた筆者がコールセンターと派遣社員の現実をけっこう赤裸々めに、ソコソコのスケールで綴っていきます。




こんばんは。小鳥遊です。

いいネタが降ってきて少し間が空いてしまいましたが「ザ・コールセンター」第3話です。

全然アクセスないです。さびしいです。まあアレです。文章力アップの練習だと思って粛々と進めます。

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今回の登場人物

菊川文子(きくかわふみこ)

主人公 二十●歳 コールセンター未経験 派遣社員 全編通しての語り手 タバコはピアニッシモ

鮎川義人(あゆかわよしひと)

主人公 三十三歳 コールセンター歴3ヶ月 派遣社員 タバコはケントの1ミリ

相葉智之(あいばともゆき)

教育係 三十三歳  コールセンター歴1年のSV(スーパーバイザー) 正社員

木本俊哉(きもととしや)

サブキャラ 二十四歳 コールセンター未経験 派遣社員 いまどきの若者 新人で文子の同期

【小説】ザ・コールセンター 第3話「スクリプト」

わたくし、菊川文子がこのコールセンターで執務室デビューをしてから早1週間。わたしは・・・焦っていた。

渡されているスクリプトは全部頭に叩き込んでいる。まだまだわからないことはあるけれど、相葉さんがいつもていねいに教えてくれるから今のところ特に大きな問題はない。

 

問題があるとすれば・・・先日執務室デビューした新人の中で・・・【わたしだけが】まだ1回も成約まで持ち込めていないことだ。

同期たちはこの数日、1日に何件か成約まで持ち込めるようになっていた。信じられないことにわたしたちの中で一番アホなトシヤが新人の中で一番の稼ぎ頭になっている。

 

(や、やばい・・・どうしよう・・・)

 

わたしたちが所属するのは某大手通信業者の開通工事調整窓口。営業が取ってきた申込客に向けて電話をし、工事に伺う日にちを決める。

インターネット全般の知識・工事内容についての理解・各種ツールを使った後処理など覚えることはたくさんあるけれど、やることといえば【日にちを決めるだけ】。

モノを売るわけでも勧誘をするわけでもないのに、どうしてこんなに成約できないんだろう。

 

「考えても仕方がない。ちょっと、休憩しよ。」

 

喫煙室で・・・鮎川さんが・・・シャドーボクシングをしていた。

額に汗がうっすらと滲んでいる。

(アンタ、今から何と戦うの?テッペン取るのか!?TEPPENを取るのか!?!?)

 

わたしはクルリと踵を返したが・・・向こうから声をかけてきた。

「ハァハァ、菊川さん、ハァハァ、休憩? ハァハァ」

 

(変質者や、変質者がわたしを狙ってはる・・・)

 

わたしは精一杯の作り笑いを顔に貼り付けて、振り返った。

 

「うんうん。そりゃ大変だねぇ。 フーッ」

 

わたしの話を聞いた鮎川さんは大きく煙を吐いた。窓から眼下に見える都会の景色をじ~っと見ている。ちなみにこのフロアは地上19階である。

 

「わたし、今月1回も工事日調整取れなかったら、クビになっちゃうんでしょうか。」

 

こんなとき、優しくなぐさめてくれたらさっきの奇行には目をつむってあげてもよかったんだけど。

 

「そりゃあんな話し方じゃムリだろうね。」

「!?」

 

冗談ではない。結果が出ていないから何にも言えないけれど、わたしは新人5人の中ではまともな方だ。一番と言ってもいい。他の同期はまだコッソリとスクリプトを見ながらやっているけれど、わたしは全部完全に暗記して対応している。

話す内容だけではなく、最後のページにまとめられている注意事項も精読、ゆっくりと、ハキハキと、軽快に、大きな声で話している。

 

「あの、お言葉ですが・・・」

「ん?」

「わたしのどこが間違ってるっていうんですか?わたしはスクリプトに忠実に我ながらうまく説明しているつもりです。」

 

イラッ

吸い殻を灰皿に放り込むと続けざまにもう一本くわえて火をつける。

鮎川さんは・・・鼻くそほじっていた。指で弾かれたブツは・・・わたしの手に張り付いた。

(こ、このやろう・・・)

わたしの額で血管が意思に反してピクピクしている。

 

「君はどこの誰がどんな状態でもまったく同じスクリプトをまったく同じように読み上げるのかい?」

「?」

「何?君は全自動棒読みマシーン?その頭につまっているのは信州ミソかい?それならそこにいるのは君である必要がない。ラジカセのほうがずっと安上がりだ。」

 

言うだけ言うと鼻くそ、じゃなかった鮎川さんは喫煙ルームから出て行ってしまった。

 

昼休憩が終わって後半戦。気が進まないけれど、やるしかない。

そんなことを考えていたら、相葉さんがやってきた。

「菊川さん。ちょっと気分転換に席を変えてみようか。」

「席ですか?はい、わかりました。」

 

相葉さんに案内されたのは・・・鮎川さんの隣だった。

「げっ、鼻くそ!」

「あ!?(怒)」

「・・・じゃなかった、鮎川さん。」

 

相葉さんは気分転換といったけれど、むしろ気分はサゲサゲである。そんなことを知る由もない相葉さんはニッコリ笑って自分の席に戻っていった。

「じゃ、鮎川くん。あとはよろしくね。」

 

 

わたしは気を取り直してPCの電源を入れた。気分が悪いとか言っている場合じゃない。隣が鮎川さんだろうと悪魔将軍だろうと、一件でも多くかけてなんとしても成約を取るのだ!

PCが起動して、ひと通りのソフトと顧客リストを開くまでの間・・・わたしは鮎川さんのオペレーションに絶句していた。

あのわずかな間に彼は5件架電し、そのうち3件を成約まで持ち込んでいた。手がほとんどキーボードを離れずマウスが自分の存在意義を否定されてふてくされている。

これが、このセンターのエースの仕事か。

ジッと見られていることに気づいたのか、鮎川さんがこちらを振り返った。

 

「何?」

「いや・・・すごい速さだなぁと。」

「こんなのいくつかショートカットを覚えれば誰でもできるよ。何ならいつでも教えるよ。」

「えっ?いいんですか?そんな秘密をわたしなんかに教えて。」

「・・・いや別に秘密でも何でもないし。」

 

それから鮎川さんは丁寧にいくつかのショートカットを実際の画面でどう使うのか説明し、さらに自分が普段使っている定型文のテンプレートデータとユーザー辞書データをくれた。

Ctrl+Cくらいは使っているけれど、Ctrl+Wでインターネットエクスプローラーのタブを閉じることができて、Ctrl+Shift+Tで開きなおせるなんて知らなかった。これ、地味に便利だ。

こんなことを惜しげもなく教えてくれるなんて、やっぱりイイ人なのかもしれない。シャドーボクシングと鼻くそ飛ばしさえやめてくれれば・・・

何はともあれ、これでスピードを上げればアプローチ数が増えて、成約できる確率も上がるかもしれない。

 

「鮎川さん、ありがとうございました。これでかける数が増えそうです。」

「・・・君が知りたかったのはそんなことじゃないだろう?」

「えっ?」

 

わたしが聞き返すのも待たず、鮎川さんは自分の架電に戻ってしまった。発信ボタンを押してしばらくして、電話がつながったようだ。

鮎川さんとわたしの目があった。

(アイコンタクト?よく見ておけってこと?)

 

「夕方のお忙しい時に恐れ入ります。わたくし、●●開通サポート窓口の鮎川と申します。はい。先日お申込みいただいた光インターネットの工事日のご相談でお電話差し上げました。今1、2分だけよろしいでしょうか?」

 

(ん?)

わたしはわずかな違和感を覚えた。

スクリプトの冒頭あいさつは「重要なご案内ですのでよろしくお願いいたします。」だったはずだ。それに鮎川さんのトークは他のオペレーターにくらべると少しスピードが早いような気がする。そのせいかテンポがよく話が頭に入りやすい。

 

「それでは最短日は8月10日以降となりますが、ご都合のよろしいお日にちございますか?」

(スクリプトでは最短日を伝えた後『でいかがでしょうか?』って断定してるのに、鮎川さんはお客様に聴くんだ。)

 

「お忙しいところお時間ありがとうございました。お子様がインフルエンザとのことですので、工事当日ご都合わるいようでしたらご連絡一本いただければお日にち、変更させていただきますので。」

(ああ、こんなこと言われたらうれしいだろうな。)

 

その後、彼のトークを聴く度にいろいろなことがわかった。

鮎川さんは、話すスピードも、声の大きさやトーンも、あいさつも、説明するときに使う言葉も、説明する内容も、全部お客様に応じて変えていた。

彼のトークを聞いてからだと、このスクリプトはお客様を置いてきぼりにした一方的な言葉遣いやわかりにくい説明が目立つ。

 

(相葉さん。このことを教えるために鮎川さんと・・・)

 

その日、わたしは初めての成約を取り付けた。

 

翌日、相葉さんがにこにこしながら話しかけてきた。

「菊川さんやったじゃん。初成約おめでとう!」

「鮎川さんのおかげです。研修の時にいわれた『スクリプトはあくまでもたたき台。脱スクリプトできて初めて一人前』という意味がやっとわかりました。」

「よかったね。これで派遣切り回避できるかな。」

「あはは。でも鮎川さんもずいぶん周りくどいですよね。マニュアルにしてササっと教えてくれればいいのに。」

 

相葉さんが軽く笑った。

「彼は職人気質なところがあるからね。自分の頭で考えないと身につかないことだと思ったんじゃないかな。」

「・・・」

「あいつは、やり方さえわかればできることだったらいくらでも教えてくれるからドンドン聞くといいよ。ただ、マニュアルにできないスキルやノウハウは、盗むしかないね。」

「盗む・・・ですか。」

「結果を出せるオペレーターとそうじゃないオペレーターの違いって、そういうものを盗めるか盗めないかの違いじゃないかな。」

つづく

本日の教訓

スクリプトを覚えるのはスタートであってゴールではない

自分の頭で考え抜いて初めて身につくものがある

次回予告

鮎川さんの顔には哀れみにも似た表情が浮かんでいた。

「仕事のできるオペレーターと役に立たないゴミを10秒で見分ける方法を教えてやろう。」

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(たかなし むつき)と読みます。元某大手通信系コールセンター派遣社員。36歳で派遣脱出を達成!今はシステム運用の中の人です。コールセンター仕事術や転職など、自分でいうのもアレですが、いいこと言ってます。 >> 詳細プロフィール


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