ザ・コールセンター 小説

【小説】ザ・コールセンター 第6話「戦士達の覚悟」

【小説】ザ・コールセンター

このお話は・・・

全国のコールセンターで働く派遣社員3人が「ま、いいカンジじゃね?」と思う(はず)!
満を持さず、誰も待望していないけれど小説化!!

コールセンター(某大手通信のネット回線開通の工事日をする窓口)を舞台に新人オペレーター菊川文子と、某アニメ並の完璧超人 鮎川義人が繰り広げるドタバタ劇。

約2年間、LD(リーダー)を務めた筆者がコールセンターと派遣社員の現実をけっこう赤裸々めに、ソコソコのスケールで綴っていきます。




こんばんは。小鳥遊です。

夏休みくらいは仕事術とか転職ネタから逃れたい人も多いと思うので、今日から日曜日まではさっくり読める「ザ・コールセンター」を書いていきます。

扇風機の前でスイカと麦茶を用意してお楽しみください。

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今回の登場人物

菊川文子(きくかわふみこ)

主人公 二十●歳 コールセンター未経験 派遣社員 全編通しての語り手 タバコはピアニッシモ

鮎川義人(あゆかわよしひと)

主人公 三十三歳 コールセンター歴3ヶ月 派遣社員 タバコはケントの1ミリ

【小説】ザ・コールセンター 第6話「戦士達の覚悟」

フッカフカの枕に、真新しい匂いのするシーツの海。

普段はジャージをパジャマ代わりにしていると、素肌にあたるガウンの感触は少しくすぐったい。

かすかに漂うコーヒーの香りと、窓から差し込む柔らかい朝陽。

微かに聞こえるのは、サティのジムノペディ第1番。

わたしは、いつもの畳に直敷のペッタンコになった布団では得られない、幸せあふれるまどろみの中にいた。

 

「菊川さん、菊川さん・・・」

どこからかわたしを呼ぶ声がする。

「菊川さん、菊川さん・・・」

体が揺すられる。

 

(うーん、あと21世紀だけ・・・)

肩にかけられた大きな手を払いのけた。その瞬間。

 

「2100年も寝られてたまるか!起きろ!!」

 

 

まだ人もまばらな朝のホーム。

わたしと鮎川さんは昨日と同じ服装で電車を待っていた。

久しぶりに飲んだから、酔いが回ってしまったのか、あれからずいぶんと盛り上がり醜態をさらしてしまい・・・その記憶が全てある・・・ものすごく気まずい。

 

「あのぉ・・・昨日はずいぶん取り乱してすみませんでした。」

「いや、全然気にしてないから大丈夫だよ。」

 

その言葉が真実ではないことは、誰に目にも明らかだった。

目が、笑っていない。

 

「怒って、泣いて、笑って、なぜか3発腹パンチもらって、勝手にズラだと決めつけられて髪の毛引っ張られて、上着をゲロまみれにされて、帰りたくないとダダこねられて終電逃した挙句、せっかくタクシー拾ったのに何度聞いても住所言わないから、シティホテル宿泊で給料日前に余計な出費を迫られたことなんて、全然気にしてないから大丈夫!」

「・・・メッチャ気にしてるじゃないですか。」

 

2人とも遅番だから、家に帰って着替えたらまた仕事だ。

電車がやってきた。

 

「君とは二度と飲まないからね。」

「ですよね~。」

 

*************************

 

不定期に行われる「土日祝日工事費無料キャンペーン」が終わり、わたしたちのセンターは久しぶりに落ち着きを取り戻していた。

新規のリストもその量は最盛期の約半分。

これならずっと後回しになっていた、「なかなかつながらない人リスト」にも手を付けられるんじゃないだろうか。

 

そんなある日の午後の事だった。

「女じゃ話にならん!誰か話のわかるヤツを出せ! ブチッ・・・ツー・ツー・ツー」

 

切れた。

紙面の都合があるので簡潔に4行で書くと、今回はこうだ。

  1. 土日祝日工事費無料の期間が終了していることをお伝え
  2. 申し込んだとき「土日祝も無料と案内されていた」とご申告
  3. 営業担当者が期間限定であることを案内していなかった旨をお伝え
  4. お客様キレる。電話も切れる。

 

「女のくせに」
「女じゃ話にならん」

特に年配の方に多いこの一言。このセンターで働き出してから何度となく言われている。

 

そりゃレディースデイはあるし、仕事にスーツ着なくていいし、相手がいれば結婚に逃げることができるという一面はあるけれど・・・

そもそも、レディースデイを設定しているのも、華美じゃなければ私服で仕事していいルールをつくったのも、男は仕事という風潮をつくったのも・・・ほかならぬ男性だと思うのは間違いだろうか。

 

男女論は頭のいい人に任せるとして、ただひとつ確かなのは・・・

土日祝日の工事費が有料になるのは、わたしが女だからではない!!ということだ。

 

はぁ・・・女って損だなぁ。

まぁ、こういう輩は男性オペレーターが対応すれば丸く収まるから、誰かに頼もう。

SVの相葉さんは・・・今日は休みか。

鳴尾浜さんは・・・いないな。休憩かな。

あとは・・・

 

「・・・というわけなんです。申し訳ないですが鮎川さん、お願いできませんか?」

 

昨日の今日でこの人にお願いしないといけないのは何とも気まずい。

でも、誰もいないのだから仕方がない。

 

自分では解決できないクレームは、LD(リーダー)以上にエスカレ(報告)し、その指示を仰ぐのがコールセンターのルール。

普段はSVの相葉さんにお願いすると、クレームのレベルに応じて対応スキルのあるオペレーターに案件が引き継がれる。

厳密に言えば役職のない鮎川さんはエスカレを受けることはできないのだが、このセンターでは黙認されている。

 

わたしの話を聞き終わると、鮎川さんは、わたしの目を見て口を開いた。

「それは君が女だからじゃない。君がナメられるのは覚悟が足りないからだ。」

「えっ?」

 

「たまたま通りかかったから君の対応を聞かせてもらったけど、『それは土日祝日手数料無料キャンペーンの案内を間違えた営業担当者の責任ですので』っていってたよね。」

「・・・」

「その上、君はこういっていた。『私どもではわかりかねますので、営業担当者と直接確認を取っていただけますか?』と。」

「・・・」

 

言葉が出なかった。

普段まったく意識していなかったが、改めて言葉にして自分に向けて言われると、いかに無責任化がよく分かる。

こんなことを言っておいて、「女だからナメられている」などと、よくそんなことが言えたものだ。

鮎川さんはメガネをかけ直しながら言葉を続けた。

 

「お客様にとって問題の原因が、営業窓口だろうと、配送担当だろうと、ヘルプデスクだろうと、開発担当だろうと、そんなことはどうでもいい。わかるね?」

「はい。」

「そして、君が派遣だろうとアルバイトだろうとボランティアだろうと、この会社の名前を名乗るからには、君がこの会社の代表だ。」

「・・・わたしが・・・代表・・・」

「君の取る行動、君の下す判断、君が発する言葉、すべてが会社として、ブランドとしてのものになる。

君は本当にそれだけのものを背負う覚悟を持っているのか?」

「・・・」

「確かに時給1,100円でそんな重責を背負わされるのはどうかと思う。でも君はそれを契約で受け入れてこの場に立っている。違うかね?」

「・・・その通りです。」

「それと・・・確かに今回の君の発言は君個人のミスであって女性の能力や価値とは何の関係もない。だけど世間はそうは見てくれない。君が無責任な仕事をすれば、女性全体の格を下げることになる。」

 

そういうと、彼はわたしの書いた引き継ぎメモを指先で弄んだ。

「じゃあ、あとは僕がやっておく。君は仕事に戻っていいよ。」

 

わたしは引き継ぎメモをひったくった。

「わたしがやります!!」

 

唇の橋を数ミリだけ上げた笑顔を見届けると、わたしは席に戻った。

その背中に、低いけれどよく通る声がかけられる。

 

「2時間単位で良ければ時間指定を受け付けていいよ。あと、誤案内をした営業担当から連絡をさせることもできるから、必要なら言ってくれ。」

 

つづく

本日の教訓

コールセンターのオペレーターはその会社・ブランドの代表

派遣だろうとアルバイトだろうとボランティアだろうと、引き受けた以上は責任を追う義務がある

次回予告

「君は『もうどうしようもないといえるほどベストを尽くした』と本当に言えるのか?」

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(たかなし むつき)と読みます。元某大手通信系コールセンター派遣社員。36歳で派遣脱出を達成!今はシステム運用の中の人です。コールセンター仕事術や転職など、自分でいうのもアレですが、いいこと言ってます。 >> 詳細プロフィール


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