ザ・コールセンター 小説

【小説】ザ・コールセンター 第8話「彼女の選択」

2015/12/11

【小説】ザ・コールセンター

このお話は・・・

全国のコールセンターで働く派遣社員3人が「ま、いいカンジじゃね?」と思う(はず)!
満を持さず、誰も待望していないけれど小説化!!

コールセンター(某大手通信のネット回線開通の工事日をする窓口)を舞台に新人オペレーター菊川文子と、某アニメ並の完璧超人 鮎川義人が繰り広げるドタバタ劇。

約2年間、LD(リーダー)を務めた筆者がコールセンターと派遣社員の現実をけっこう赤裸々めに、ソコソコのスケールで綴っていきます。




こんばんは。小鳥遊です。

ほかにばっかり手を付けてしまってなかなか小説が進みませんが、ボチボチがんばっていきたいと思います。

 

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今回の登場人物

菊川文子(きくかわふみこ)

主人公/二十●歳/コールセンター未経験/派遣社員/全編通しての語り手/タバコはピアニッシモ

鮎川義人(あゆかわよしひと)

主人公/三十三歳/コールセンター歴3ヶ月/派遣社員/タバコはケントの1ミリ/メガネ/声が低い/このコールセンターの絶対エース/正論を歯に衣着せずズバズバいうため敵が多い ※今回は名前だけで登場

相葉智之(あいばともゆき)

教育係/三十三歳/コールセンター歴1年のSV(スーパーバイザー)/正社員

木本俊哉(きもととしや)

サブキャラ/二十四歳/コールセンター未経験/派遣社員/いまどきの若者/パートのおばちゃんに配るお菓子を常備している/お調子者だが派遣の修羅場をくぐってきている/新人で文子の同期

【小説】ザ・コールセンター 第8話「亀裂」

・・・来ない。

といっても生理ではない。

 

来ないのは派遣更新の打診。

このコールセンターで派遣社員として働き出してから2ヶ月はとうに過ぎている。

にも関わらず、待てど暮らせど派遣会社の営業担当者からは何の連絡もない。

どうやら、ほかの同期たちにも連絡はないらしい。

 

同期たちで集まった安い居酒屋。

今日休みのメンバーもわざわざ出てきてくれた。

早番・遅番に分かれるようになってから、こうして全員で集まる機会はなかなかない。

自然とテンションが上がる。

 

ドンッ

「それにしても、ここの社員たちは何であんなにやる気ねーかなぁ!」

 

テーブルを叩く音がしたかと思うと、木本が甲高い声を張り上げた。

顔が・・・赤い。

目が・・・座っている。

 

「役職ない社員なんて俺たちとやってる仕事まったく変わらねーじゃねえか。

 俺たちよりぜんぜん架電できてないのに、何であいつらは交通費出て、ボーナス出て、有給とは別に給料もらって夏休み取れるかねぇ!!」

 

この一言が引き金になり、同期たちの不満が爆発した。

 

「そうそう。私たちには仕事休んだら診断書とか提出させるくせに、どうしてアノ人たちは休んでも給料減らされないのよ!」

「朝礼で『改善策をどんどん出せ』っていうからリストをしっかり管理するように言ったら、メッチャ嫌そうな顔されるし!」

「いい加減『派遣さん』じゃなくて名前で呼べってんだよ、なぁ!!」

 

派遣社員だったら誰でも一度は持つ不満だろう。

わたしだってたまには考えてしまうことがある。

 

わたしたち同期は年齢はバラバラだけど仲がいい。

その上、人間としてもまっすぐで真面目なメンバーばかりだ。

実務に入れば競い合い、教え合い、仕事を離れてもLINEグループで仕事について議論する。

 

いつの間にか正社員やパート、わたしたちより前から働いている派遣社員を押しのけて、鮎川さん and わたしたち同期で毎日のランキング上位が独占されるようになっていた。

お酒が入って気持ちが大きくなっていることもあるだろうが、こうした状況に、わたしたちは多少なりとも天狗になっていたのだと思う。

このほんの小さな奢り(おごり)、慢心(まんしん)が、あんなことになるなんて、酔っ払ったわたしたちには、想像することさえできなかった。

 

 

「菊川さん、ちょっと時間もらっていいかな。」

「えっ?わたしですか!?」

 

ある日、わたしに声をかけたのは、SVの相葉さんだった。

クールビズだというのにしっかり締めたネクタイと、キレイにアイロンをかけたシャツが心地いい清潔感を醸し出している。

 

「構いませんけど。」

「じゃあ、一息入れてからでいから、B会議室に来てくれる?」

 

*****************************

「失礼します。」

 

ドアを開けると、相葉さんがノートパソコンを開いていた。

普段はかけないメガネ(あとで聞いた話では度の入っていないPCメガネなのだそうだ)が、知的さを演出している。

わたしに気づいた彼はパタンとノートパソコンを閉じた。

 

「あ、忙しいところごめんね。」

「いいえ。大丈夫です。」

「まあ座って。自販機で買ったやつで悪いけど、紅茶でもどう?」

「あっ、いただきます。」

 

夏も盛りを過ぎたというのに、まだまだ暑い。

ちょっと効きすぎのエアコンが心地いい。

紅茶をいただき、深呼吸をしたところで、相葉さんが今日の議題を切り出してきた。」

 

「で、話なんだけど。菊川さん、リーダーやってみる気ない?」

「リーダー・・・えっ?わたしがですか!?」

 

そのまま聞き流すところだったが、慌てて聞き直した。

リーダーって、あのリーダーだよね。

動揺するわたしに、相葉さんが笑いながら説明を続ける。

 

「まだ3ヶ月だけど菊川さんのパフォーマンスは十分だからね。今回からこのセンターでは派遣社員の方からも管理職を出そうということになってね。その記念すべき第一号に菊川さんが候補として上がってるってわけさ。」

「・・・わたしが・・・リーダー・・・」

「時給も上がるよ。まだ確定じゃないけど200円上げる方向で調整している。また派遣会社の担当さんから連絡があると思う。」

「に、にひゃくえん!?!?」

 

時給で200円といえば、1日8時間で1,600円。

1ヶ月が20日勤務とすれば32,000円の収入アップということになる。

これで給料日前は1日チロルチョコの生活から抜け出せる!!

 

それに、リーダーになればメンバーでは権限のないデータにアクセスできたり、メンバーではできない仕事ができる。

鮎川さんと協力すれば、スクリプトもリスト管理も一から作りなおして、みんなが楽しく仕事をできるセンターが作れるかもしれない。

 

妄想にふけっていると、相葉さんの咳払いが聞こえてきた。

不審者を見る目でわたしを見ている。

いかんいかん。

 

「じゃあ、派遣社員からあと何人かはリーダーになるってことですか?」

 

相葉さんの不信感を和らげるべく、とりあえず話を振ってみた。

わたしがリーダーになるくらいだから、間違いなく鮎川さんもなるだろう。

もしかしたら、木本もなれるかもしれない。

 

ところが、相葉さんの口から出たのは意外な一言だった。

 

「いや、派遣からは君一人。あとは正社員から出すことになっている。」

「えっ?」

「それから、リーダーは名乗ってもらうけど、特に変わった仕事をやってもらうつもりもないから。」

「それって・・・どういうことですか?」

 

その後、相葉さんの口から語られたのは、あまりにショッキングな内容だった。

口にする相葉さんの表情も曇っている。

きっと、本位ではないのだろう。

 

 

最近、社員の間でわたしたちの評判が良くないらしい。

わたしたちに成績で抜かれた社員がやる気をなくしてきていて、わたしたちの知らないところで「生意気」と悪口を言っているそうだ。

その一方でクライアントからは優秀な人間をドンドン登用してセンターのパフォーマンスを上げろと言われている。

 

そこで出た案が、「派遣社員のリーダーを一人つくり、そのリーダーに派遣をおとなしくさせる」ことらしい。

つまりわたしは・・・リーダーとは名ばかりの、派遣社員を黙らせるためだけに存在する正社員たちの犬ということだ。

 

あまりのショックにわたしは言葉を失った。

成績でかなわないからやる気を無くすとか・・・子供か!!

派遣社員は正社員を抜いてはいけないって・・・ここは四民平等の日本じゃないのか?

派遣切りに合わないために結果を出して生き残ろうと必死に頑張ってることが、そんなにいけないことなのか!?

 

相葉さんがさらに続ける。

わたしと目を合わせようとしないのは、良心の呵責というやつだろうか。

 

「それと、君は鮎川くんとある程度距離をおいた方がいい。」

「・・・どういう意味ですか?」

「君たち同期全員に言えることだけど、特に君は彼の影響を受けすぎている。」

「おっしゃっている意味がわかりません。」

「失業したくはないだろ?長いものには巻かれろってことだよ。」

 

そうか、そういうことがいいたいのか。

彼は、14行上の太字の3行を鮎川さんからの悪影響と位置づけ、正社員にとって不都合な、危険思想だと言っているわけだ。

 

「僕たちは全員が幸せな平和な組織を作りたい。彼は敵を作りすぎた。あの弱肉強食思想はせっかくの調和を乱す。」

「・・・」

「君がこの役目を引き受けてくれたら、僕から働きかけて契約社員として直接雇用してもらえるよう推薦する。」

「直接雇用ですか?」

「約束はできないけれど、そこからの頑張り次第で正社員だって夢じゃない。いい話だろ?」

「・・・正社員・・・」

「一生懸命がんばるのはいいことさ。鮎川くんのストイックさはすごいと思う。だけど、もう少し大人にならないと世の中は渡っていけない。そうだろ?」

 

確かにおとなしくしていれば、雇用は継続、貧乏でも餓死することはない。

もしかしたら、直接雇用してもらえるかもしれない。

 

全員なんとか・・・オールフォーワン・・・人という字は人と人が支えあっている・・・

いろいろな言葉が頭のなかをグルグル回った。目が回る。

 

(じゃあ、鮎川さんは間違っているのか?)

彼は正社員やパートを相手に権力や小細工など決して使わない。足を引っ張ったりしない。

それどころか、あらゆる情報を提供し、労を惜しまずセンター全体のパフォーマンスアップに動いている。

正社員の何倍も働いて、クライアントの利益に貢献している。

手抜きに怒ることはあっても、自分の境遇に文句を言ったりはしない。

 

それでも、結果で評価を求めることは間違っているのか?

「派遣だろうが社員だろうが、新人だろうがベテランだろうが、クライアントの代表としてお客様に接しろ」と言っているのに、こんな時だけ身分を持ち出すのか?

 

鮎川さんだったら・・・こんな時どうするだろう。

彼だったら・・・きっと・・・

 

2回深呼吸をしたわたしは、いつもより大きく口を開いた。

わずかに走った痛みで、エアコンで乾燥した唇にヒビが入ったのがわかった。

 

「わたしは、鮎川さんについていきます!鮎川さんがリーダーじゃないというのなら、わたしもリーダーにはなりません!!」

「なっ!?」

「もう子供じゃありません。何が正しいかは自分で選びます!本当についていきたい人についていきます!!」

 

それだけいうと、わたしは席を立った。

後ろで呼び止められた気がしたけれど、振り返らずに扉を閉めた。

 

・・・月額3万2千円の増収が~

それ以前に、正社員に正面から逆らったりしたら厳重注意の上、派遣契約が更新されないかもしれない。

 

知らん!!

もう言ってしまったものは仕方ない。

あとはなるようになれ。

 

わたしは、自分の席に戻るとインカムをかけた。

嫌なことを忘れるには、仕事に打ち込むに限る!!

 

*****************************

ギリッ

 

誰もいないB会議室に、男の歯ぎしりが響いた。

窓から差し込む夕日が、顔の凹凸に深く黒い影をつくった。

 

「お前はまたアノ時の続きを・・・同じ失敗を繰り返すつもりか、鮎川ぁ。」

 

つづく

本日の教訓

人は時として、自分を向上させるより人の足を引っ張ることで自己の優位性を保つ道を選ぶ

人は時として、そうもないことに権力を使う

次回予告

心配で声をかけるわたしに、彼は少し唇を歪めて不敵な笑顔を向けた。

「ハンデだよ、ハンデ。」

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(たかなし むつき)と読みます。元某大手通信系コールセンター派遣社員。36歳で派遣脱出を達成!今はシステム運用の中の人です。コールセンター仕事術や転職など、自分でいうのもアレですが、いいこと言ってます。 >> 詳細プロフィール


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