ザ・コールセンター 小説

【小説】ザ・コールセンター 第10話「正社員ニアラズンバ、人ニアラズ」

2015/12/11

【小説】ザ・コールセンター

このお話は・・・

全国のコールセンターで働く派遣社員3人が「ま、いいカンジじゃね?」と思う(はず)!
満を持さず、誰も待望していないけれど小説化!!

コールセンター(某大手通信のネット回線開通の工事日をする窓口)を舞台に新人オペレーター菊川文子と、某アニメ並の完璧超人 鮎川義人が繰り広げるドタバタ劇。

約2年間、LD(リーダー)を務めた筆者がコールセンターと派遣社員の現実をけっこう赤裸々めに、ソコソコのスケールで綴っていきます。




先月、1話しか書けてないのか。

ちゃんと週刊にできるように、頑張ります。

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今回の登場人物

菊川文子(きくかわふみこ)

主人公/二十●歳/コールセンター未経験からスタートした新人/派遣社員/全編通しての語り手/タバコはピアニッシモ

鮎川義人(あゆかわよしひと)

主人公/三十三歳/派遣社員/タバコはケントの1ミリ/メガネ/声が低い/このコールセンターの絶対エース/正論を歯に衣着せずズバズバいうため敵が多い

相葉智之(あいばともゆき)

教育係/三十三歳/コールセンター歴1年のSV(スーパーバイザー)/正社員

木本俊哉(きもととしや)

サブキャラ/二十四歳/コールセンター未経験/派遣社員/いまどきの若者/パートのおばちゃんに配るお菓子を常備している/お調子者だが派遣の修羅場をくぐってきている/新人で文子の同期

【小説】ザ・コールセンター 第10話「正社員ニアラズンバ、人ニアラズ」

「・・・以上です。よろしくおねがいします。」

相葉さんを囲んでいたLD(リーダー)たちがバラバラと持ち場に戻っていく。

 

全体朝礼が終わった後で開かれるLD以上の朝礼。

わたし、菊川文子も新人LDとして参加するようになった。

正直なところ・・・何を言っているのか半分もわからない。

もっと、勉強しなくちゃ。

 

というわけで、メモを持って押しかける。

相談相手はもちろんこの人だ。

 

「・・・あの、さっき話しに出ていたSLA(エスエルエー)ってなんですか?」

「ん?ああ、サービス・レベル・アグリーメント。一言で言えば『クライアントに対してうちが約束するサービスレベルの保証』だな。」

「・・・相葉さん、さっきの朝礼で『ギリギリだから・・・』って言ってませんでした?」

「そう。だから僕たちLDが、このセンターのレベルを早急に上げないとクライアントから契約を打ち切られる可能性もある、ということだね。」

「うへぇ・・・」

 

先日、LDに昇格した派遣社員は2人。

一人はわたし。

そしてもうひとりは・・・鮎川さんだった。

 

当初、派遣からLDに登用されるのはわたしだけのはずだった。

わたしが派遣社員の中で飛び抜けて実力があったから・・・ではもちろんない!

日に日に正社員・パートに対する不信感を強める派遣組をなだめるためのお飾りLDだ。

 

それが、直前に翻った。

何でも、わたしのLD昇格をクライアントに報告したところ、

「なぜ、ぶっちぎりのパフォーマンスと指導力を持った鮎川さんを登用しないのか?」

と突っ込まれたようだ。

 

(菊川さんを登用するのはお飾りとしての特例で、派遣社員から管理職は出さないことになっているからです)

・・・とはさすがに言えなかったらしい。

結局、わたしと一緒に鮎川さんも昇格することになった。

 

*****************************

「あのフミちゃんが管理職だもんなぁ。」

「やめてよ、まだまだ見習いなんだから。」

「でも派遣からLDが出るのは、今回が初めてなんでしょ?やっぱフミはすごいよ。」

「よっ、派遣の星!」

 

同期どうしが集まった安居酒屋。

シフトの都合で全員はなかなか集まれないが、こうして集まればすぐに息が合う。

やっぱり、同期っていいなぁ。

適度に回った酔いが心地よい空気を作っている。

 

「俺たちも成績しだいで昇格できるかな。」

「えっ?木本LDになりたいの?面倒なだけじゃん。」

「でも給料上がるぜ。直雇用されるかもしれねえし。」

「そ~よねー。あんなにストレス溜めて仕事してるのに、大学生のバイトと同じだもん。やってられないわ。」

「ろくに架電もできないのにふんぞり返ってる正社員やパートのおばちゃんに派遣の意地を見せてやろうぜ!」

・・・

 

好戦的な発言はちょっといただけないが・・・士気が高いのはいいことだ。

確かに、ヒイキ目なしに見ても派遣組のパフォーマンスは上がってきている。

数字を見れば一目瞭然だ。

 

・・・それを上回るスピードで目標も上がるでいつもギリギリだけど・・・

・・・そして・・・木本のいう「正社員やパートのおばちゃん」が足を引っ張っている。

LDになってから、こういう数字を嫌でも見るようになった。

 

とはいっても・・・

不条理なクレームや組織ゆえの憤りはあるけれど・・・

頑張れば数字のあがるこの仕事が面白くなってきているのも確かだ。

 

正社員に取って代わるのはムリかもしれないけれど。

少しずつ実力が認められれば、直雇用や次のステップが開けるんじゃないか。

そんな希望の光を感じつつ、仲間たちの集まりは深夜まで続いた。

 

*****************************

今日は遅番。

LDになってからわたしは1時間早く出勤するようにしている。

コールセンターの管理職はオペレーターが考える以上に仕事が多い。

わたしが慣れていないのもあるが、メールを全部チェックして周知事項を整理できない。

 

執務室に入ると、木本と目があった。

軽く手を振ったが、無視された。

 

「ちょっと木本、今、目があったのに無視したでしょ?」

 

そういって詰め寄ると、きつい目つきで睨みつけられた。

いつもふざけている彼が、こんな顔をするなんて、想像したこともなかった。

彼は、たじろぐ私にきつい口調でこういった。

 

「はぁ。いいよなフミさんは。」

「えっ?何?」

「鮎川さんとフミさん以外の派遣は、全員今月で切られるんだよ。」

 

(え!?何、なんて言ったの?今。)

 

何を言っているのか、しばらく理解できなかった。

が、彼のPCに映しだされたメールを見て、すべてを悟った。

 

そこにはセンター長からのメールが映しだされていた。

わたしと鮎川さん以外の名前がリストアップされ、その後に

「以上の派遣スタッフは今月末で契約が終了することとなりました。」

と一行だけ極めて事務的に書かれていた。

 

朝礼では何も言われず、彼を筆頭に派遣社員全員で説明を求めたが、「契約を終了することになった。」の一点張りだったそうだ。

落ち度がなかったどころか、パフォーマンスを上げてきているのに何の説明もなく一方的に契約を終了されるなんて、そんなことが許されていいわけがない。

 

今月末ということは、あと2週間しかない。

急にも程がある。

派遣会社が空白期間なく仕事を紹介してくれればいいが・・・派遣の仕事は常に奪い合いだ。

実際、わたしの場合、このコールセンターの仕事を紹介されるまで3ヶ月かかっている。

きっと大半の派遣社員は「無職」での生活を余儀なくされるだろう。

 

そして何より・・・

こんな大切なことを、事前説明もなくメール一本で済ませるなんて、最低限のビジネスマナーすら守れていない。

木本じゃなくても怒るに決まっている。

途方にくれるわたしに、彼はさらにきつい口調で詰め寄ってくる。

 

「フミさん。アンタ知ってたんだろ?こうなることを。」

「そんなこと、知るわけないじゃない。昨日だってみんなで頑張ろうって言ってたくらいだし。」

「どうだか。」

「ホントだってば!」

「そりゃあんたは頑張ってたよ。でもアンタと俺達にそこまでの実力差があるのか?鮎川さんはともかく、何でアンタは継続雇用で俺たちはお払い箱なんだよ!?」

「わたしにそんなこといわれても・・・」

 

彼の怒りは痛いほどわかる。

わたしだって派遣切りされるたびに味わってきたことだ。

だけど、そんな経験いくら積み重ねても、今の彼を沈めるスキルは身につけられない。

 

その時・・・木本が・・・こう言った。

「アンタ、上のおっさんと、寝たんじゃねえの?」

 

 

もう、立ち直ったはずだった。

下ネタだって軽くこなせるくらい回復したはずだった。

でも・・・彼の責められない悪意が・・・呼び覚ましてしまった。

 

 

 

(暴れるんじゃねーよ。)

(次も更新してやるって言ってるんだよ。)

(おい、お前ら脚を抑えろ)

(お前ら派遣は、黙って俺たちの言いなりになってりゃいいんだよ)

 

 

最初はかすかな耳鳴りほどだったが、一気にフェイドインして大音量で流したステレオのように頭いっぱいに広がった。

それは、生々しいまでのリアリティを保っていた。

音・涙で歪んだ天井・肌に刻み込まれた不快な体温・・・そして、突き抜ける痛み。

体中に蘇るあの日の記憶。

全身から力が抜けて・・・わたしは、意識を失った。

*****************************

目を覚ますと、そこは医務室だった。

窓から差し込んだ夕日が、部屋中を茜色に染め上げている。

今日という一日を、どこか次の国へ手渡す瞬間。

 

(わたし、半日も寝ちゃったんだ。)

 

ふと見ると、木本が心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。

わたしは、軽く手を振ってみせた。

彼の顔に、ほんの僅か、安堵が浮かんだ。

 

「悪かった。フミさん。俺、ホントに最低だ。」

「しょうがないよ。」

「いや、だってフミさん何にも悪くねえもん。」

「もういいってば。」

「でも、気絶するほどショックだったんだろ?」

「ああ、それは・・・まぁ、、、いろいろあって。でもとにかく気にしなくていいから。あ、そのお茶まだ開けてないんでしょ?ちょうだいよ。」

 

ほんの僅かな間に、外はほとんど真っ暗になってしまった。

つい最近まで、夜7時を過ぎても薄明るかったのに。

寂しさは、秋の色、か。

 

「俺たち、何か悪いことしたのかな。」

木本がポツリと呟いた。

 

「そりゃ頭は悪いかもしれねえけど。こんなことされるほど悪いことしたかなぁ。」

「・・・木本・・・」

「何でろくに仕事しない正社員や、孫の小遣い稼ぐとか言ってるパートのおばちゃんは残れて、俺たちは出て行かなきゃいけないんだ?」

「・・・」

「夏休みも盆休みもなく働いて、ボーナスもでないで、交通費も自分で出してるのに、何でこっちの都合は何一つ聞いてくれないんだ?」

「・・・」

 

木本は・・・泣いていた。

わたしも、目元が熱くなる。

ダメだ。

わたし、こういうの、弱いんだ。

 

「派遣社員って・・・人間じゃねえのかな。」

 

なぜか、無性に今日は休みの鮎川さんに会いたくなった。

どうしようもないことなのだろうけど、鮎川さんだったら何か言ってくれる気がした。

 

彼は、このことを知っているんだろうか。

もし知らなかったら、休みが開けた明日、どんな気持ちでこのことを受け止めるんだろうか。

 

微かに見え出した月を見つめても、答えはかえってこなかった。

*****************************

翌日。

せっかくの休日なのに気分が重かった。

けれど、押し寄せる業務が、皮肉にもそれを忘れさせてくれた。

 

・・・昼礼まではいた鮎川さんが姿を消していたことも、忘れていた。

この時、彼と相葉さんが会議室であんなやり取りをしていたことを知ったのは、この日からずっと後になってからのことだった。

 

「相葉、何でこんなことになった。派遣たちの成績は十分だったはずだ。」

「俺に言うなよ。上の判断だ。」

「・・・お前ら、またクライアントへの業務改善案に派遣の入れ替えを提案したのか?」

「仕方ないだろ。何か提案しなきゃ契約継続が危ないんだ。それに、これはお前らのせいでもあるんだぞ。」

「どういうことだ?」

「お前ら、実力のない正社員やパートへの反発を強めてるだろ。それを煙たがる人たちがいるってことだ。」

 

バンッ

机を叩く音が会議室に響く。

 

「そんな理由で・・・そんな理由でお前はあいつらを切り捨てたのか?そんな理由で!?」

「俺達には十分な理由だ。お前があいつらを炊きつけなければ何人かは残れたかもしれないがな。」

 

鮎川さんは、乱暴に相葉さんの肩を乱暴につかみ、自分の方に引き寄せた。

取り乱した様子もなく、相葉さんは次の言葉を紡いだ。

 

「上に楯突いて仲間を巻き添えにする。お前、同じ失敗を何回繰り返す気だよ。」

「お前も派遣だったのに。今日のあいつらと同じ目にあったのに。何で派遣の気持ちがわからないんだよ!」

「わかるさ。だからこそ苦労して搾取する側に回ったんだよ」

 

その目には、自分より下のモノを見下す哀れみが宿っていた。

相葉さんの胸ぐらをつかみ上げた鮎川さんは、噛みつくように叫んだ。

 

「それが人間のやることか!!!!」

 

本日の教訓

派遣は人間以下の調整弁。必要なくなれば捨てられる。

搾取する側の人間に、搾取される側の気持ちはわからない。

次回予告

肩に置かれた手が、そっと離れ・・・後ろから、抱きしめられた。

背中に触れた彼の胸から、心臓の力強い鼓動が伝わってきた。

耳にかかる吐息の熱さが、ささやくように投げかけられた言葉にもこもっていた。

「さぁ、俺と鮎川、どっちにつく?」

 

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(たかなし むつき)と読みます。元某大手通信系コールセンター派遣社員。36歳で派遣脱出を達成!今はシステム運用の中の人です。コールセンター仕事術や転職など、自分でいうのもアレですが、いいこと言ってます。 >> 詳細プロフィール


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