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【小説】ザ・コールセンター 第11話「昔話 Part 1」

ザ・コールセンター

このお話は・・・

全国のコールセンターで働く派遣社員3人が「ま、いいカンジじゃね?」と思う(はず)!

満を持さず、誰も待望していないけれど小説化!!

コールセンター(某大手通信のネット回線開通の工事日をする窓口)を舞台に新人オペレーター菊川文子と、某アニメ並の完璧超人 鮎川義人が繰り広げるドタバタ劇。

約2年間、LD(リーダー)を務めた筆者がコールセンターと派遣社員の現実をけっこう赤裸々めに、ソコソコのスケールで綴っていきます。


 

実生活の方が何かと忙しくて、ブログの更新もままならない今日この頃ですが・・・

今月は4つ話を進めることを目標にしていますので、頑張ります。

最近、ちょいちょいコメントをいただけるようになったのが、本当に励みになります。

いつも、ありがとうございます。

今回の登場人物

菊川文子(きくかわふみこ)

主人公/二十●歳/コールセンター未経験からスタートした新人/派遣社員/全編通しての語り手/タバコはピアニッシモ

鮎川義人(あゆかわよしひと)

主人公/三十三歳/派遣社員/タバコはケントの1ミリ/メガネ/声が低い/このコールセンターの絶対エース/正論を歯に衣着せずズバズバいうため敵が多い

相葉智之(あいばともゆき)

教育係/三十三歳/コールセンター歴1年のSV(スーパーバイザー)/正社員

【小説】ザ・コールセンター 第11話「昔話 Part 1」

このセンターで大規模な派遣切りが行われることが決まってから数日がたった。

一時は大きく動揺した派遣組も、今はすっかり落ち着いて・・・いや、諦めて淡々と業務をこなしている。

今だけを見ていると、彼らが一週間後にはいなくなるなんて、とても信じられない。

わたしが相葉さんに呼ばれたのは、そんな初秋のことだった。

 

「忙しいところ悪いね。どうだい?もうLD(リーダー)の仕事には慣れたかい?あっ、コーヒー飲むかい?」

 

相葉さんは、いつもどおり柔和な笑みを浮かべ、イスを勧めてきた。

わたしはだいぶ伸びてきた髪をかきあげ、イスに身を沈めた。

そりゃ1ヶ月に一度は美容院に行きたい・・・お金が・・・ない。

 

「コーヒーは苦手なんです。前置きは結構ですから、本題に入っていただけませんか?」

 

相葉さんは、やれやれというように首を振った。

少し間を置いてから、自分はイスに座らず、ホワイトボードの前を行ったり来たりしながら、口を開いた。

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僕と鮎川が出会ったのは、5年前。

僕もあいつも派遣社員として通販のお客様センターで働いていた。

入社時期も一緒、研修も隣の席だったから、すぐに仲良くなったよ。

 

あいつはあの頃からすごかった。

まったくの未経験だったけれど、タイムカード切ってから終電まで勉強してた。

今と変わらず無愛想な奴だったけど、メキメキと実力をつけて周りの信頼を勝ち取っていった。

 

あいつが商品・サービス知識でも対応スキルでも正社員を抜くのに時間はかからなかった。

そんなことを鼻にかけず貪欲に上を目指し続ける姿に、派遣社員はますますあいつを慕った。

僕たち派遣社員もそのストイックな姿勢に牽引されて、それぞれ実力をつけていったよ。

今の君たちと同じだね。

 

当然・・・あいつをよく思わない人間が少しずつ増えていった。

・・・そんなところまで同じにならなくってもいいのにね。

 

僕たちがあのセンターで勤めだして1年ほどたったある日。

親会社の業績不振から通販部門が大幅に規模を縮小することになった。

 

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そこまで話して、相葉さんは紙コップのコーヒーを一口すすり、わたしに話を振ってきた。

「どうなったか、だいたいわかるだろ?」

「派遣社員が、削減されたんですね?」

「正解。歴史は繰り返すっていうけど、ホントにそのとおりだよね。」

 

わたしは早く続きが聞きたくて、目で話を促した。

(そう急かすなよ)

そんな眼差しが返ってきた。

 

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一方的な派遣切りに対して激しく反発したのが鮎川だった。

派遣が正社員より高いパフォーマンスを出していることや、派遣社員を残したうえで業績をあげてセンター規模を確保できるシミュレーションをつくったりして、センター長に直談判したのさ。

 

ところが、そのセンター長がちょっと残念な人でね。

鮎川に絶対に言ってはいけない一言を言ってしまったんだ。

「派遣社員が派遣先のやり方に口を出すな。お前らと俺達は人種が違うんだ。奴隷は奴隷らしくしてろ。」

・・・ってね。

 

あいつはセンター長に正社員の無能さを、この世にこんな汚い言葉があるのかって言葉を選び抜いて叩きつけた。

あいつの一番の才能は悪口だと、その時初めて知ったね。

 

執務室の隅でのやり取りだったから僕たちもそれに気づいてね。

一緒になってセンター長と正社員を批判したんだ。

 

・・・派遣社員は全員クビ。

鮎川が籍をおいていた派遣会社は出入り禁止。

あいつ自身も派遣会社から登録を抹消された。

 

あれから3年。

僕はなんとかこの会社に正社員として入社。

あいつは今も派遣社員。

たまたまあいつが入ってきたコールセンターの上司が僕だった。

で、今に至るというわけさ。

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話が終わると、相葉さんは私にあるイスに腰掛けた。

カップに少しだけ残ったコーヒーを流し込むと、腕を組んだ。

わたしはずっと思っていたことを投げかけた。

 

「どうして、わたしにそんな話をしたんですか?」

「改めて選んで欲しいからさ。どっちにつくのかを。」

「選ぶ?」

「前はフラレちゃったけど。今なら答えも変わるんじゃない?正社員側につくか、派遣側につくか。」

「・・・」

「じゃあ質問を変えるよ。僕につくか、あいつにつくか、どうする?」

 

思わぬ質問に、わたしの心は幾重もの波紋を描いた。

眼差しからわたしの意図を読み取った相葉さんは説明を続けた。

その説明が、さらに私の心をかきみだした。

 

「あいつは3年前から何も変わっていない。「同一労働同一賃金」や「実力主義」なんて既得権益を持った奴らが認めるわけがない。」

「・・・」

「第一、派遣社員はこうなることを了承したうえで契約書にサインしてるんだ。それを後からどうこういう方が間違っているとは思わないかい?」

「そ、それはそうですが・・・管理職以上ならともかく、役職のない正社員は派遣社員と同じ仕事を派遣社員以下のレベルでしかやっていません。」

「うん、まぁ、そうだね。」

「同じことを正社員以上にやっているのに正社員のほうが優遇されるのはおかしいと思います。それってルール違反じゃないですか?」

「君もすっかり鮎川に感化されちゃったね。」

 

相葉さんはたまらず苦笑いを浮かべた。

いつもなら好印象な笑顔が、この時だけは腹立たしかった。

 

「契約継続の決定権をこちらが持つのも、君らが言う低賃金も、君らは同意しているはずだよ。ルールを守れって言うならまず君らが守るべきじゃないのかい?」

「グッ」

「正社員より実力があるというなら、正社員になればいいじゃないか。」

 

珍しく声を荒げた相葉さんの目は、言っていることは全く違うけれど。

鮎川さんと同じ、強い信念を持った目だった。

その気迫に押され、わたしは何もいうことができなかった。

 

「何年かかるかわからないけれど、僕は必ずこのセンターのトップになる。」

「トップって・・・センター長ですか?」

「そうだよ。そして実力を正当に評価して、有能な人材は正社員として登用する。そんなセンターをつくるつもりだ。」

「・・・」

 

相葉さんはいつの間にかわたしの後ろに回っていた。

柔らかく、しかし力強くわたしの肩に置かれた手からは、服越しにもその温かさが伝わってきた。

 

「確かに派遣社員の待遇は人の道からすればルール違反かもしれない。」

「・・・」

「でも、ルール違反にルール違反で対抗するのは、相手と同じレベルに落ちるってことだよ。」

「・・・」

「だから僕はルールに則ってルールを変える。正しい人が正しく評価されるルールをつくる。」

「・・・」

「何かをつくるには何かを壊すしかない。多少の犠牲が出ても、どんなに恨まれても、泥をすすってでも僕はトップになる。この信念を曲げない。」

 

肩に置かれた手が、そっと離れ・・・後ろから、抱きしめられた。

背中に触れた彼の胸から、心臓の力強い鼓動が伝わってきた。

耳にかかる吐息の熱さが、ささやくように投げかけられた言葉にもこもっていた。

 

「さぁ、俺と鮎川、どっちにつく?」

本日の教訓

何かを作るには何かを壊すしかない。

ルール違反にルール違反で対抗するのは、相手と同じレベルに落ちるということ

次回予告

「俺たち、こんな目に合わなきゃいけないようなこと、したんですかねぇ。

俺たちは、夢なんか見ちゃ、いけないのかな・・・」

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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