このお話は・・・
全国のコールセンターで働く派遣社員3人が「ま、いいカンジじゃね?」と思う(はず)!
満を持さず、誰も待望していないけれど小説化!!
コールセンター(某大手通信のネット回線開通の工事日をする窓口)を舞台に新人オペレーター菊川文子と、某アニメ並の完璧超人 鮎川義人が繰り広げるドタバタ劇。
約2年間、LD(リーダー)を務めた筆者がコールセンターと派遣社員の現実をけっこう赤裸々めに、ソコソコのスケールで綴っていきます。
GLAYとL'Arc~en~Cielだと・・・・僕はGLAY派です。
ラルク、実力が世界レベルなのは認めるのですが、なんか洗練されすぎているというかオシャレというか・・・
GLAYの演歌っぽさや北海道から出てきました感が好きです。
でも・・・この曲はすごく好きで。
今回の「ザ・コールセンター」はこの曲を聴きながら書かせていただきます。
今回の登場人物
菊川文子(きくかわふみこ)
主人公/二十●歳/コールセンター未経験からスタートした新人/派遣社員/全編通しての語り手/タバコはピアニッシモ
木本俊哉(きもととしや)
サブキャラ/二十四歳/コールセンター未経験/派遣社員/いまどきの若者/パートのおばちゃんに配るお菓子を常備している/お調子者だが派遣の修羅場をくぐってきている/新人で文子の同期
鮎川義人(あゆかわよしひと)
主人公/三十三歳/派遣社員/タバコはケントの1ミリ/メガネ/声が低い/このコールセンターの絶対エース/正論を歯に衣着せずズバズバいうため敵が多い
相葉智之(あいばともゆき)
教育係/三十三歳/コールセンター歴1年のSV(スーパーバイザー)/正社員
【小説】ザ・コールセンター 第12話「MY HEART DRAWS A DREAM」
「菊川さん。手が止まってるよ。」
その声にわたしはハッと我に返った。
隣の席の鮎川さんが呆れたようにコチラを見ている。
「今日はどうした、ボーっとして。何?便秘??」
・・・こ、この野郎。。。
誰のせいでこんなに悩まなきゃいけないと思っているんだ!
・・・まぁ、最近、ちょっと出てないんだけど・・・
話は数日前。
相葉さんに呼び出されたあの日に遡る。
*****************************
「さぁ、俺と鮎川、どっちにつく?」
わたしを後ろから抱きしめながら、相葉さんは言った。
が、すぐに飛び退いた。
「ごめん。こんなことして。セクハラだね。」
相葉さんがパッとわたしから離れた。
ものすごく気まずそうな顔をしている。
普段温厚でどんなことがあっても取り乱さない人なのに、外から見てもわかるくらい動揺している。
「本当に申し訳ない。」
相葉さんはそういってもう一度、今度は深々と頭を下げて謝った。
「気にしていませんから大丈夫ですよ。」
わたしは軽く首を振った。
気遣いとか嘘ではない。
・・・もう少しあの状況が続いていたらわからなかったけれど。
ようやく息を整えた相葉さん。
まだぎこちないが、いくぶん落ち着きをとりもどしているようだ。
「僕が派遣先の上司という時点で『立場は関係なしで』っていうのはムリだろうけど、一人の男の話として聞いてほしい。」
「・・・」
「僕は君が好きだ。」
耳が熱くなるのを感じた。
きっとわたしの耳たぶは真っ赤になっていることだろう。
まっすぐわたしに向けられる彼の眼差しが、対して大きくもない胸の鼓動を速める。
「君が入った時から、ずっと好きだった。付き合ってほしい。」
「ええと・・・相葉さん・・・」
「君がどんな返事をしようと、それで他の派遣よりヒイキしたり冷遇するようなことは絶対にしない。これだけは約束する。今、契約書を書いてもいい。」
「・・・」
「だけど、もし僕のことを受け入れてくれたら。どんなことがあっても君を守るよ。」
*****************************
・・・というようなことがありまして・・・
アラサーのくせに、いろいろ悩んじゃってるわけです。
- 派遣と正社員
- デリカシーゼロのセクハラ男と紳士さん
- 誰にでも噛みつく狂犬と、敵をつくらず上手く立ち回れる人
- わたしを便秘女扱いする人と、わたしを好きな人
・・・
誰に相談したって相葉さんなんだろうけど・・・
何で、いまだに返事ができないんだろう。
返事は急がなくていいとは言ってもらっているけれど・・・あんまり待たせるのも申し訳ないしなぁ。
(はぁ)
今日、何度目かのため息。
「おい、本当に大丈夫か?いぼ痔か?それとも切れ痔か?」
・・・ほんと、何でこんな男のために悩まなきゃいけないんだ・・・
*****************************
木本たち派遣組の最終勤務日。
わたしたちは、普段わたしたちが使う安居酒屋とはちょっと違う、落ち着いた個室で別れの杯を交わしていた。
派遣先の一方的な契約更新拒否でハシゴを外された彼ら。
同じ派遣社員ながら管理職として契約を更新された鮎川さんとわたしは、どう接していいかわからず、悶々とした日々を過ごしていた。
そんなわたしたちに、木本たちは
「ちょっと鮎川さんもフミさんも、送別会の一つもやってくれないわけ?」
と、助け舟を出してくれた。
きっと送別会なんて出る気分ではないだろう。
それでも気丈に、いつもと同じように振る舞ってくれる彼らの心使いが、申し訳なくもあり、ありがたくもあった。
普段はこういう席にはほとんど寄り付かない鮎川さんが、幹事を買って出た。
今日のこのコジャレたお店も、彼のセレクトだ。
・・・3時間いられて飲みホ付11品のコースで会費3,000円なんて・・・いったいどんな手を使ったんだろう。
送別会は大盛況だった。
ほんの半年足らずの期間だったのに、思い出話は尽きることがない。
事情を知らなければ、誰もこの会が「派遣切りされて明日から無職の人たちを送り出す会」とは気づかないだろう。
それくらい、笑顔と歓声があふれる明るい会だった。
木本が笑っていた。
鮎川さんも笑っていた。
わたしも笑った。
・・・それくらい気持ちを盛り上げないと、やりきれなかった。
正直、お酒も料理も味なんかしない。
それでもわたしたちは、飲み続け、笑い続けた。
「俺、この仕事で正社員になれたら、彼女にプロポーズするつもりだったんですよ。」
それは小さな小さな声だった。
こんなに騒がしい場なのに、全員がそれに気づいた。
一瞬で静寂が周囲を支配した。
「カスミさん?」
「はい、そうです。」
鮎川さんが口にした名前は、現在絶賛同棲中の木本のカノジョ。
わたしたちも何度か会ったことがある、木本にはもったいないくらいの美人。
・・・カノジョも派遣だ。
「何度も派遣切りされてきたけれど・・・鮎川さんを見てたら、派遣でも頑張ったら登用されるかもって思ったけど・・・やっぱダメでしたね。」
自嘲気味に吐いた言葉が、灰皿から立ち上る煙と絡み合いながら、天井に消える。
「鮎川さん・・俺たち、こんな目に合わなきゃいけないようなこと、したんですかねぇ。
俺たちは、夢なんか見ちゃ、いけないのかな・・・」
木本の頬に、悔し涙が伝った。
誰も。何も言えなかった。
何か口にすれば、壊れてしまいそうだったから。
「すみません。湿っぽくなっちゃって。さぁ、飲んでください。」
場の空気を読んだ木本が、声を張り上げた。
鮎川さんのコップにぬるくなったビールが勢いよく注がれる。
全然泡が立たない。
わたしは一つ空いていた木本の隣の席に座ると、ビールを注いだ。
勢い余って結構こぼれた。
「うわっ、何すんだよフミさん!」
「うるせー!いいから飲め!!」
ようやく場の空気が元に戻ったところで、木本がポツリと呟いた。
ふと見ると、そこにはいつもと同じ木本がいた。
・・・いつもと同じことが、痛々しかったけれど・・・その声はとても力強かった。
「俺、諦めませんよ。何年かかってでも絶対にカスミのこと幸せにします。」
「君ならきっとできるよ。」
「ただ・・・アイツには正社員登用秒読みみたいなこと言っちゃったんですよね・・・謝らないと。」
「・・・アンタ、そんなこと言ったの?」
「なぁフミさん。一緒に謝ってくれよ。」
「知らないわよそんなこと!」
「冷てぇなあ。俺とフミさんの仲じゃねえかよ。」
その時だった。
こぼれたビールで濡れた木本のケータイが震えた。
そこに表示された番号を一目見た木本は、酔いを感じさせないシャープな動きでケータイを掴んで、電話を取りながら外へ出た。
数分後。
呆然とした顔で戻ってきた。
「なんか・・・紹介予定派遣・・・決まっちゃいました。」
その日一番の歓声が上がった。
*****************************
いずれにせよカスミさんには事情を話さなければいけないだろうけれど・・・きっと大丈夫だろう。
その後、実は今回あのセンターを卒業する派遣組は全員次の仕事が決まっていることがわかった。
お互い気を使って言えなかったのだろう。
大通りの交差点。
JR組、私鉄組、地下鉄組はここで別れてそれぞれの帰途につく。
そしてこの交差点から、わたしたちはそれぞれの道を歩き出す。
それぞれの面々を送り出した後、木本がわたしと鮎川さん、交互に握手を求めてきた。
「フミさん。世話になったな。」
「カスミさん、大事にしなさいよ。」
「最後の言葉がそれかよ。可愛くねーなー。」
その後。
木本は、鮎川さんの手を、はたからみてもわかるくらい力強く、ガッチリと握った。
「鮎川さん。お世話になりました。」
「元気でな。」
「鮎川さんが相葉さんに頭を下げて派遣会社に頼んでくれなかったら、俺たち全員無職のまま追い出されるところだったと思います。。本当にありがとうございました。」
「・・・気づいてたのか。」
「人の顔色見るのは得意ですから♪」
驚いた。
本当に驚いた。
鮎川さんが、そんなことをしていたなんて。
そして、相葉さんがあんなに気まずくなっていた鮎川さんの頼みを聞いて動いてくれたのにも驚いた。
やっぱり、この二人には単に昔の同僚というだけではない何かがある。
電車の中。
別れ際、私と鮎川さんに投げかけられた木本の言葉をかみしめていた。
それは、イヤフォンから流れる音楽の音量を上げても消えることはなかった。
「負けるなよフミさん。負けるなよ鮎川さん。負けるなよ!!」
本日の教訓
その気はなくても、派遣先正社員のアクションはパワハラ・セクハラになる。
共働きじゃなければ生活できない派遣社員は、結婚はできても子どもはつくれない。
次回予告
「僕や上司ではなく、この企業のフィロソフィに従ってください。
答えのない問題に取り組むとき、人として何が正しいかで判断できる人であってください。
それがプロの矜持です。」